「平昌2018冬季パラリンピック現地調査報告会」を開催しました

本学では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック前最後の大会である平昌冬季パラリンピック(開催時期:2018年3月9日~3月18日)に、学生3名、教職員4名の計7名の調査団を派遣し、韓国の障害者スポーツ普及や社会的包摂教育等への取り組み調査、本学の教育・研究に寄与する情報、学生の参加を促す企画立案に役立てる情報等の調査を行いました。

2018年5月31日の報告会には、本学学生・教職員、外部関連団体、メディアなど、100名を超える方々にご参加いただきました。内容の一部をご紹介します。


平昌にて練習中のウィルチェアラグビー選手と
平昌にて練習中のウィルチェアラグビー選手と

韓国での障害者スポーツ普及のきっかけ

 

 現在、韓国では障害者関連の法整備が進んでいますが、それは、1988年のソウルパラリンピックで、障害者がもっと社会に進出すべきと言う風潮が生まれたことがきっかけで、これまで長い年月をかけて韓国社会が変わってきました。

 

 特に大きなきっかけになったのは、2006年に国連総会にて障害者権利条約が採択され、世界的に共生社会を築く動きが生まれてきたことに対して、すぐに韓国政府が対応したことだといわれています。2007年に障害者差別禁止法を公布し、条文の中で、第25条体育活動の差別禁止、および、その施行令(第16条体育活動の差別禁止)をうたっています。そして、2008年には障害者権利条約を批准しました。

一方、日本は、2014年に障害者権利条約を批准しており、法整備という点で韓国に遅れをとる形となっています。

 

 法整備が大きなきっかけとなって変化している韓国では、現在では、障害者が不便無く社会進出できるようになってきており、それまでリハビリとしてしか運動をしていなかった障害者が純粋にスポーツを楽しめるような環境も整備されています。

 また、エリートスポーツを推進するための障害者専用スポーツ施設であるナショナルトレーニングセンター「韓国パラスポーツトレーニングセンター」を約184,070㎡の広大な敷地に建設し、陸上競技場、屋内プール、体育館、車いすテニス専用コート、アーチェリー場、卓球場、宿泊施設、レストラン等が常設され、韓国のパラリンピック選手の強化拠点として活用されています。

ソウルの地下鉄にて
ソウルの地下鉄にて

 

ソウル市内のアクセシビリティ調査

 

このような韓国の変化をふまえて、本調査では、平昌冬季パラリンピックの現地調査だけでなく、ソウル市内地下鉄のアクセシビリティ調査や、現地大学や、障害者支援団体、義肢装具等の開発・販売を行う企業等への訪問し、それぞれの立場での考え方や取り組みを調査してきました。

 

ソウル市内地下鉄のアクセシビリティ調査では、実際に車いすに乗り、駅構内への入場から切符購入、地下鉄への乗り降りなどの一連の動きを調査しました。


写真のように、韓国のソウル市内にある地下鉄の改札には、車いす専用の改札があり、低い位置に切符挿入口が設置されているため、駅員を呼ばなくても自力で改札内に入ることができるようになっていました。それを見たときには、ユニバーサルデザインが整っていると感じましたが、いざ中に入ろうとすると、扉がとても重く、車いすを走らせながら改札内に入ることはとても困難な状況でした。
しかし、近くにいた男性が中から扉を支えてくれて改札内に入ることができ、ファシリティ面で足りていない部分を補う韓国の方の温かい一面を感じることができました。

 

本学協定校であるソガン大学の障害者支援制度

 

訪問調査先の一つである本学協定校のソガン大学では、学内の障害学生支援体制やオリンピック・パラリンピックに対する取組み、学生ボランティア派遣状況について、障害学生支援センター長にヒアリングを行いました。

ソガン大学では、現在、申請ベースで40名の障害をもつ学生が在籍しており、そうした学生の支援体制を整えるために、障害者サポートができる支援学生の育成プログラムを設け、現在約60名の支援学生が登録しています。そうした支援学生の人数確保のために、障害学生支援を条件とした奨学金の設立や、障害学生とともに寮で生活することを条件とした寮費減免制度(通常学生の50%減免)を設け、ボランティアという視点だけでなく、支援学生にもメリットのある制度を作り、障害学生支援を安定的に運用する制度を整えていました。


ソガン大学として、平昌2018冬季オリンピック・パラリンピックにボランティア派遣は行っていませんでしたが、その理由は、韓国は就職環境が厳しく、就活等の自身の市場価値を高めるために学生一人一人が自発的にそうした活動に取り組んでいることが多く、大学が旗振りを行う必要はないためとのことでした。日本のボランティアの考え方とは少し異なっている印象があり、ボランティア精神だけで活動しているというよりは、自身にメリットがあるのかという視点が強い印象を受けました。
しかし、こうした理由であっても、障害者が安心して生活や就学できる環境を、安定的に提供できるのであれば、そうしたアプローチ方法も有効な手段であると感じ、本学にはない障害学生支援奨学金や、寮制度、使途を明確にした寄付金など制度面で参考になる点が多く、今後、支援体制を充実させていくうえで非常に有意義な訪問となりました。

 

平昌パラリンピック会場での様々な調査

 

ソウルでの調査後、私たちはパラリンピック会場である平昌に向かいました。平昌では、パラリンピック開会式やアルペン競技、パラアイスホッケー会場に行き、ボランティアスタッフや来場者の聞き取り調査、会場内の言語・ファシリティ面の調査を行いました。

 

会場周辺の駅では、日本語や英語対応ができる韓国人ボランティアに出会うこともありましたが、ボランティアの多くは韓国語以外通じず、また、案内標識においても多言語対応していないものが多く、ファリシティ面では不十分な点が多くありました。しかし、そうした点をカバーしようと、言語の壁を越えて積極的に明るく声掛けしているボランティアの姿が印象的で、「ハード面をハートで補う」という熱い想いを感じることができました。

平昌パラリンピック調査報告

 

韓国は、法整備がきっかけとなり、国民の障害者への関心や考え方が変化しました。法律というハード面が変わることにより、国民のハートが変わる。国民の意識が変わることによって世論が強くなり、ハード面の改革が進む。それでも不十分な点を一人一人のハート面でカバーする。そしてハード面とハート面の循環サイクルができていることを感じました。

 

韓国での調査結果をふまえた提言

 

一連の調査をふまえ、報告会後半の提言パートでは、調査団学生メンバーから、

『私たちが、直接ハード面を変えることは難しいかもしれないが、学生だからこそできること、それはハード面を変えるためのハートの集まりを作ることだと思う。小さなスタート、例えば、ここにスロープを付けたら車いすが通りやすくなるのではないかと学生が考えて設置を望み、その想いが多くの学生に広がることでハード面の改善は可能になる。

設備のような目に見えるハード面だけでなく、学生の力でもっとこうした方がみんなが過ごしやすい大学になるのではというものがあれば変えていくために行動していきたいし、そのようなハートの集まりで実現できることが無限にあるはず。その想いを実現するために、学生プロジェクト「Go Beyond」を立ち上げます!』という発表がありました。
 

「Go Beyond 」立ち上げを発表する学生
「Go Beyond 」立ち上げを発表する学生

また、調査団職員メンバーからは、障害のある学生の支援環境・制度充実や、障害者支援に関する知識・スキル修得のための講座設置、障害学生支援者向け奨学金制度の導入、リサーチ奨学金(海外留学先での現地研究調査に対する奨学金)の導入などの提言を行いました。教員からは、教育研究の観点で、学部・学科・国境を越えた研究の推進や、体験型授業を取り入れた共生社会関連授業の充実の必要性などを提言しました。
 

 

終わりに 

報告会参加学生の中には、学生プロジェクト「Go Beyond」に入りたい!と、報告会終了後に調査団学生メンバーに駆け寄ってくる学生がいるなど、本調査がきっかけとなって学内に新たなムーブメントが生まれたことを実感しました。今後、それらの提言について更に検討を進め、実現に向けて活動していくことを誓い、報告会を終えました。